紀元后五百二十七年ユスチニアーヌスハ其ノ養父ユスチーヌスノ崩御ニ因リ単独ニ羅馬国ヲ支配スルコトト為リタル時ニ当リテ羅馬法ハ混乱ノ状態ニ在リタリヴワレンチニアーヌス第三世カ紀元後四百二十六年ニ制定シタル引用法ニ依リ有効ト認メラレタル学説法グレゴリアーヌス及ヒヘルモゲニアーヌスノ勅令彙纂【両者何レモ官命ニ依リテ成リタルモノニ非ス】又テオドジウス第二世ノ勅令彙纂中当時ノ国情ニ適合セス若ハ実際廃用ニ帰シ又ハ矛盾セル規定少カラス之ニ加フルニテオドジウス第二世ノ法典編纂後ニ多数ノ勅令制定セラレタリ之ヲ以テ儒帝ハ一ハ混乱セル法律状態ヲ整理センカ為メ又一ハベリザーリウス等ノ智謀剛勇ニ因リ各地ヲ征服シタル功績トシテ獲得シタル平和ヲ維持センカ為メ法典編纂ノ事業ヲ計画シタリ
儒帝ハ先ツ前記ノ三勅令彙纂及ヒ其ノ後ニ制定セラレタル勅令ヲ整理編纂セントシ五百二十八年二月十三日ノ勅令ヲ以テ其ノ計画ヲ公ニシ外務内務長官ツリボニアーヌス及ヒ「コンスタンチノーポリス」法学校ノ教授テオフヰルス等十名ノ編纂委員ヲ挙ケ勅令彙纂編成ノ方針ヲ訓示シタリ五百二十九年四月七日ノ勅令ニ依リ帝ハ勅令編纂委員カ精励シテ其ノ事業ヲ遂行シタルコトヲ賞シ委員ノ手ニ成リタル勅令彙纂ヲ嘉納シタル旨ヲ公ニセリ此ノ勅令彙纂ハ五百二十九年四月十六日ヲ以テ実施セラレタリ之ヲ称シテ旧勅令彙纂トス
儒帝ハテオドジウス第二世カ遂行セサリシ考案ノ如ク法学者ノ著書ヲ材料ト為シ一大法典ヲ編纂セントシ五百三十年十二月十五日ノ勅令ニ依リツリボニアーヌスヲ委員長ト為シ外数名ノ委員ニ命シテヴワレンチニアーヌス第三世ノ引用法中ニ指名セラレタル法学者及ヒ其ノ他ノ者ノ著書中ヨリ委員カ必要ト認メタル部分ヲ採録シ学説彙纂(Digesta)一名会典(Pandectae)ト題スル法典ヲ編纂セシメタリ委員ハ約三年間ニ二千巻三百万行ノ法律文ヲ読破シ五十巻ノ法典ヲ編纂シタリ儒帝ハ五百三十三年十二月十六日ノ勅令ニ依リ之ヲ公布シ同年同月三十日ヨリ其ノ施行ヲ命シタリ
儒帝ハ初学ノ法学生ニ対スル教科書トシテ一小法典ヲ編纂スルノ必要ヲ認メタリ蓋シ法学隆盛時代ニ著ハサレタル法学教科書ハ当時既ニ陳腐ニ属シタル部分多カリシカ故ナリ之ヲ以テ帝ハ学説彙纂カ未タ脱稿セサル以前ニツリボニアーヌス、テオフヰルス及ヒ「ベリツス」法学校ノ教授ドロテウスノ三名ニ「インスチツチヨーネス」（法学階梯）ノ編纂ヲ命シタリ此ノ勅命ハ特別ノ勅令ノ形式ヲ以テ為サレサリシモノノ如シ「インスチツチヨーネス」ハ五百三十三年十一月二十一日ノConstitutio Imperatoriam maiestatumニ依リ公布セラレConstitutio Tantaニ依リ学説彙纂ノ施行期日ト同日即チ五百三十三年十二月三十日ヲ以テ施行セラレタリ此ノ法典ハ実ニ「コンスタンチノーポリス」、「ベリツス」等ノ法学校ニ於テ儒帝新学生(Iustiniani novi)カ法学教育ノ「アルフワ、ベータ」トシテ之ヲ学ヒタルノ時ヨリ現今ニ至ルマテ大凡千三百八十年間絶ヘス法学生ニ依リ講習セラルル法律書ナリ
儒帝ハ学説彙纂及ヒ法学階梯ノ制定ト共ニ前ニ制定シタル勅令彙纂ヲ修正スルノ必要ヲ認メツリボニアーヌス、ドロテウス等ニ命シテ修正勅令彙纂(Codex repetitae praelectionis)ヲ編纂セシメタリ五百三十四年十一月十六日ノ勅令ニ依リ修正勅令彙纂ハ公布セラレ且ツ同年十二月二十九日ヨリ施行ヲ命セラレ同時ニ旧勅令彙纂ハ廃止セラレタリ
修正勅令彙纂ノ制定ノ後儒帝崩御ニ至ルマテ【五百六十五年】ノ間ニ幾多ノ新勅令制定セラレタリ是等ノ新勅令ハ帝命ニ依リ一体ト為サレスシテ止ミタリ
以上ハ儒帝立法事業ノ大要ナリ後世Corpus iuris civilis（羅馬法大全）ト称スルモノハ儒帝ノ法学階梯学説彙纂修正勅令彙纂及ヒ新勅令ニ加フルニ同帝以後ニ制定セラレタル十有余ノ勅令ヲ併称スル羅馬法律書ナリ
「インスチツチヨーネス」ノ編纂委員ハ前記ノ如クツリボニアーヌス、テオフヰルス、ドロテウスノ三名ナリ(e. Imperatoriam maiestatem §3)而シテツリボニアーヌスハ監修ノ任ニ当リ執筆者ハ他ノ両名ナリシモノノ如シ両名中何レカ何レノ部分ヲ編纂シタルカニ就テハ種々ノ説アリフシユケハ第一巻第二巻及ヒ多分第四巻中第十八章(de publicis iudiciis)ハドロテウスノ手ニ成リ他ノ部分ハテオフヰルスノ手ニ成リタルモノトスフシユケハ前二巻及ヒ第四巻第十八章ト他ノ部分ト文体及ヒ用語中ニ別人ノ筆ニ成リタルノ特徴アルコトヲ指摘シ更ニ後ノ二巻（第四巻第十八章ヲ除ク）ト通常テオフヰルスノ著ナリトシテ知ラルル儒帝ノ法学階梯希臘語注解書トノ行文ノ方法ヲ比較シ此ク結論セリ(Huschke, Imperatori institutionum libri quattuor, Lipziae 1868 Praef. p.VI--XIII)グルーペ(Grupe, de Iustiniani Institutionum compositione 1884)之ヲ賛成ス伊太利ノフエルリーニハフシユケノ説ニ反シテ前二巻及ヒ第四巻第十八章ノ編者ハテオフヰルスニシテ他ノ部分ハドロテウスノ編纂ニ係ルトス(Zeitschrift der Sav.-Stift. R. A. XI, 1860 S. 106 ff.)是等ノ二説ノ外ニ仏蘭西ノミスプーレーハ一種ノ説ヲ為シテオフヰルス及ヒドロテウスノ両委員ハ先ツ共ニガアイウスノ法学講義案(Commentarii)及ヒ儒帝ノ学説彙纂ヲ抄録シ進テ各別ニ儒帝ノ勅令彙纂ヲ抄録シタリ(Mispoulet, les sources des Institutes de Justinien in der Nouv. rev. list de d. fr. et étr. XIV. 1890 p. 5--p. 29)又伊太利ノブオナミーチノ説ニ依レハ編纂委員ハ規定ノ事項ニ依リ予メ各自ノ分担ヲ定メ執筆セリ而シテテオフヰルス及ヒドロテウスノ何レカカ法源、人ノ法及ヒ財産法（債権法ヲ除ク）及ヒ刑法ノ部分ヲ編纂シ他ノ一人カ債権法民事訴訟法ノ部分ヲ編纂シタルナリト法学階梯ノ巻章ヲ以テ云ハハ第一巻第二巻第三巻中第一章乃至第十二章及ヒ第四巻第十八章ハ或編纂委員ノ手ニ成リ他ノ部分ハ他ノ委員ノ手ニ成リタルモノトス(Buonamici, Duo piccole note di diritto romano dans l' Archiviog iuridico LVIII 1897 p. 139--p. 146)
儒帝ノ法学階梯中何レノ部分カ何レノ編纂委員ノ手ニ成リタルカノ問題ニ就テハ以上ノ如キ諸説アリト雖モ何レモ確証アルニ非ス予ヲ以テ見レハフシユケノ説ニ重キヲ置クヘキ一応ノ証拠アルモノノ如シ然レトモ此ノ問題ハ寧ロクリユーゲルカ云フカ如ク未解決ノモノトシテ断定ヲ下タササルヲ以テ穏当トス(Krüger, Geschichte der Quellen. 2 Aufl. 1912 S. 286--S. 387)
儒帝ノ学説彙纂ノ各節ノ冒頭ニハ当該ノ節ニ引用セラレタル法文ノ原著者、書名及ヒ原著書ノ巻数ヲ示シタリ故ニ法文ノ出所ハ一目瞭然タリ法学階梯ニハ此ノ如ク出所ヲ示メサス故ニ編纂委員固有ノ法文ニ非サル法文ノ出所ノ不明ナルモノ多数アリ法学階梯ノ編纂ニ当リテ委員カ資料ト為シタル法律書ハC. Imperatoriam maiestatem §6ニ明記ス即チ「此ノ法学階梯四巻ハ前掲三名ノ学者【ツリボニアーヌステオフヰルスドロテウス】カ古人ノ著ハシタル諸種ノ法学階梯及ヒ主トシテ吾カガアイウスノ法学講義案並ニ其ノ法学実用書及ヒ其ノ他ノ多数ノ注解書ヲ資料トシテ編纂シ」云々ト此ノ法文ニ依リ法学階梯ノ資料カ何タリシカヲ知ルニ足ル然レトモ現今法学階梯ノ内容ニ就キ判断スルニ編纂委員カ資料ト為シタルハ必スシモ法学者ノ著作ニ限ラス旧勅令彙纂等モ亦其ノ資料ノ一ヲ為シタリ
法学階梯ノ淵源ヲ大別セハ左ノ如シ
（イ）ガアイウスノ著書殊ニ其ノCommentarii【法学講義案】及ヒ其ノres cottidianae【法学実用書】是等ノ淵源中（イ）（ロ）（ハ）（ニ）ニ就テ聊カ説ク所アラントス
（ロ）フロレンチーヌスノInstitutiones
（ハ）マルチアーヌスノInstitutiones
（ニ）ウルピアーヌスノ著書殊ニ其ノInstitutiones及ヒRegulae
（ホ）パウルスノSententiae
（ヘ）ユスチニアーヌスノ学説彙纂
（ト）儒帝ノ規定
（ト）ニ属スルモノヲ細別シテ二トス
第一 編纂委員カ新シク加ヘタル規定及ヒ旧規定ニ加ヘタル変更
第二 旧勅令彙纂中ニ編纂セラレタル勅令
（イ）儒帝ノ法学階梯中最モ多ク引用セラレタル学者ハガアイウスニシテ又著書ハ其ノ法学講義案ナルコトハGneist, Syntagma (1880)又ハKrügerノ「インスチツチヨーネス」本ヲ一見セハ判然タリグナイスト本ニハガアイウスノ法学講義案ト儒帝ノ法学階梯トノ法文トヲ対比印刷シ又クリユーゲル本ニハ儒帝ノ法学階梯ノ法文中ガアイウスノ法学講義案ヨリ採録シタル部分ハ符号ヲ以テ注意ヲ与フ
儒帝ノ法学階梯ハ多ク其ノ材料ヲガアイウスノ法学講義案ニ求メタルノミナラス編成ノ順序ニ於テモ之ニ拠リタルモノト思ハルガアイウスハ私法ヲ分類シテ吾人ノ用ユル法ハ或ハ人ニ或ハ物ニ或ハ訴訟手続ニ関スト為シ(Gaius 1, 8)其ノ法学講義案ノ第一巻ニハ法源及ヒ人ノ法ヲ第二巻及ヒ第三巻ニハ物ノ法ヲ第四巻ニハ民事訴訟法ヲ説キタリ儒帝ノ法学階梯ヲ見ルニ第一巻ニハ法源及ヒ人ノ法ヲ第二巻第三巻ニハ物ノ法ヲ第四巻中第五章ニ至ルマテハ物ノ法ヲ第四巻第六章ヨリ同第十七章ニ至ルマテニハ民事訴訟法ヲ説キ唯同巻第十八章ニ簡単ニ刑法ヲ説キ以テ全篇ヲ終ハレリガアイウスノCommentariiハ私法提要ニシテ儒帝ノ法学階梯ハ私法ノ綱要ニ加フルニ刑法ノ指教ヲ含メリ（註）然レトモ私法ノ規定ヲ説明スル大体ノ順序ハ両者同一ナリ
（註） 儒帝ノ法学階梯中ニハ其ノ第四巻第十八章ニ於テ法学生ニ対シテ極メテ簡単ニ刑法ノ指教ヲ与ヘタリ(I. 4, 18, §12)而シテ刑法ノ詳細ハ固ヨリ之ヲ学説彙纂中ノ「恐怖スヘキ巻」（第四十七巻及ヒ第四十八巻）ニ譲リタリ故ニ法学階梯中刑法ニ関スル説明ノ簡略且ツ不備ナルニ由リテ直ニ羅馬刑法カ不完全ナリシモノト言フ能ハサルハ論ヲ俟タス又単純ノ盗(furtum)ノ如キ違法行為ニ刑法上ノ制裁ヲ科セサリシ所以ヲ以テ羅馬刑法カ不完全ナリシモノト論スルハ正鵠ヲ得サルモノト考フ立法者カ違法行為中ニ犯罪ト不法行為トノ類別ヲ為スト雖モ何レモ法益侵害ノ行為ナリ唯沿革上ノ理由ニ基ツキ現今文明国ノ法制ニ於テ犯罪トシテ処罸セラルル或違法行為カ羅馬時代ニハ単ニ不法行為トシテ制裁セラレタルニ過キス而カモ羅馬国情ノ変遷ト共ニ単純ナル盗ニ特別ノ法律事実ヲ加フル違法要件ニ対シテハ刑法上ノ制裁ヲ科スルニ至リタルハ羅馬刑法発達史上顕著ナル事実トス唯羅馬刑法ハ剛毅ナル人民ヨリ成ル武断国ノ刑法ナルカ故ニ処分規定及ヒ刑罸執行方法ニ就テハ現今ノ文明国ノ刑法ニ比スレハ固ヨリ峻厳残酷ナルノ感ヲ生スルモノ少ナカラス例ヘハ未成熟者ヲ鶏姦シタル者ハ之ヲ死刑ニ処ストノ規定ノ如キ(Paulus, Sent. 5, 4, 14; D. 47, 11, 1, 7)又ハ火刑犯人ヲ猛獣ニ委付スルノ刑若ハ袋ノ刑(Poena cullei)ノ如シ然レトモ刑法規定ハ其ノ存シタル国ノ文化ヲ殊ニ顕著ニ反影スルモノナルコトヲ想到セハ吾人カ峻厳残酷ナリト感スルト同一ノ程度ニ於テ羅馬人カ其ノ刑法規定ニ就テ感セサリシモノナリシナラン尚ホ一言セント欲スルコトハ他ニ非ス羅馬刑法学発達ハ私法学カ羅馬ニ発達シタルノ程度ニ比スレハ大ニ遜色アリシコト是レナリ
今進ミテガアイウスノ法学講義案中ニ説ケル事項ニシテ儒帝ノ書ニ無キ主ナル事項ヲ挙ケン
（一）法学講義案ノ第一巻中ニ羅馬市民及ヒ羅甸市民ニ関スル説明アリ儒帝時代ニ於テハ自由人タル羅馬国民ハ法律上同一ノ取扱ヲ受クルヲ以テ原則ト為シタルカ故ニ儒帝ノ書中ニハ両者ニ関シテ特別ノ説明ナシ
（二）法学講義案第四巻ハ法定訴訟方式及ヒ「階梯書」ニ依ル訴訟手続ヲ説明ス即チ羅馬民事訴訟手続ノ第一期及ヒ第二期トシテ通常知ラルル時代ノ訴訟手続ヲ説明ス此ノ部分ハ千八百十六年以降ノ羅馬法研究ニ重要ナル資料ヲ供シタリ儒帝ノ書中ニハ此ノ部分ニ関スル説明殆ント無シ
ガアイウスノres cottidianaeモ亦儒帝ノ書ノ重ナル淵源ノ一ナリ之ハガアイウス時代ノ実用ニ適スル私法規定ヲ簡明ニ説明シタル七巻ノ書ナリ後世之ヲAureaト称セリ此ノ書ノ内容中現今伝ハラサル部分多シ故ニ儒帝ノ書中ニ此ノ書ヨリ抄録セラレタル凡テノ部分ヲ明言スルコト能ハスト雖モI. 2, 1, §11--§17; §20--§24; §29--§31; §40; §42--§46; §48【所有権取得ノ方法】及ヒI. 3, 14, pr.; §2--§4; I. 3, §15, pr.; I. 3, 27 §2等ハres cottidianae中ノ法文ニ拠リタルモノト思ハル
（ロ）フロレンチーヌスノInstitutiones 此ノ書ハピウス帝ノ崩シタル後ニ書カレタル十二巻ノ書ナリ(D. 41, 1, 16; divus Pius)此ノ書中ヨリ儒帝ノ書中ニ引用セラレタル法条ハ左ノ如シ
I. 1, 12, §5 (D. 49, 15, 26); I. 2, 1, §18--§19 (D. 1, 8, 3; D. 41, 1, 6); I. 2, 11, §1 (D. 29, 1, 24); I. 2, 16, §6 (D. 28, 6, 37); I. 2, 19, §4 (D. 28, 5, 49, 1); I. 3, 17, §2 (D. 45, 2, 7)
（ハ）マルチアーヌスノInstitutiones 氏ハカラカルラ帝ノ死亡ノ後二十六巻【或ハ十五巻ナリトモ云フ】ノInstitutionesヲ書キタリ此ノ書中ヨリシテ儒帝ノ書中ニ採録セラレタル法文少ナシトセス例ヘハI. 1, 4, pr. (D. 1, 5, 5, 2; 3); I. 1, 12, §2 (D. 48, 22, 4); I. 1, 25, §4 (D. 27, 12, 1, pr); I. 1, 25, §16 (D. 27, 1, 21, 1); I. 2, 1, pr. (D. 1, 8, 2, 4); I. 2, 1, §16 (D. 1, 8, 6, 1); I. 2, 1, §9 (D. 1, 8, 6, 4); I. 2, 7, 1 (D. 39, 6, 1); I. 2, 14, pr. (D. 28, 5, 49, 2); I. 2, 15, §1 (D. 28, 6, 36); I. 2, 17, §3 (D. 36, 1, 30); I. 2, 18, pr. (D. 5, 2, 2); I. 2, 20, §16 (D. 30, 112, 1); I. 2, 25, 2 (D. 29, 7, 6, pr. 1); I. 3, 4, §4 (D. 38, 16, 9)ノ如シ
（ニ）ウルピアーヌスノ著書
氏ノ著書ニシテ最モ多ク儒帝ノ書中ニ引用セラレタルハ二巻ノInstitutiones及ヒ七巻ノRegulaeナリInstitutiones中ヨリシテハI. 1, 1, §4 (D. 1, 11, 2); I. 1, 2, §3 (D. 1, 1, 6, 1); I. 1, 2, §6 (D. 1, 4, 1); I. 1, 5 (D. 1, 1, 1, 4); I. 2, 3, pr. (D. 8, 3, 1)ノ法文引用セラレRegulae中ヨリシテハI. 1, 1, pr. §1 (D. 1, 1, 10, pr. §2); I. 2, 3, §2 (D. 8, 3, 1 et D. 8, 4, 1, 1); I. 2, 10, 8 (D. 22, 5, 17)ノ法文引用セラル
Mispoulet（前掲論文十九頁）ノ説ニ依レハ儒帝ノ法学階梯ノ直接ノ資料ヲ為シタル法学者ノ著書ハ唯ガアイウスノ法学講義案ノミニシテ他ハ原本ヲ直ニ資料ト為シタルニ非ス間接ニDigesta中ヨリ抄録セラレタルモノナリト此ノ説ニ対シテハAppleton (Les sources des Institutes de Justinien in der Rev. générale du droit 1901 S. 17 f.)ノ提出セル反対証拠ハ有力也一例ヲ挙クレハ儒帝ノ法学階梯第一巻第四章首項中ニ
「是ヲ以テ若シ懐胎中ノ女奴カ解放セラレ更ニ女奴トナリテ分娩シタルトキハ出生児ハ自由人ナルカ又ハ奴隷ナルカノ疑問ヲ生シタリ。マルツエルスハ之ヲ自由人ト見ルノ説ヲ承認ス(Et Marcellus probat liberum nasci)是レ胎児カ胎内ニ在リタル間ニ一瞬間タリトモ自由人タル母ヲ有スレハ足レリトシタルモノナリ此ノ説是レナリ(quod verum est)D. 1, 5, 5, 3 (Marcianus, libri I. Institutionum)ノ法文ニ曰ク
「是ヲ以テ若シ懐胎中ノ女奴カ解放セラレ更ニ女奴トナリ若ハ国外ニ追放セラレテ分娩シタルトキハ出生児ハ自由人ナルカ又ハ奴隷ナルカノ疑問ヲ生シタリ然レトモ之ヲ自由人ト見又胎児カ胎内ニ在リタル間ニ一瞬間タリトモ自由人タル母ヲ有シタルヲ以テ足レリト為スノ説承認セラレタルハ正当トス(Et tamen rectius probatum est)右両法文ヲ比較スルニ儒帝ノ書中ニハ明白ニマルツエルスノ名ヲ掲ケ其ノ意見カ承認セラレタルコトヲ説キ之ト異ナリ学説彙纂中ニハマルツエルスノ名ヲ記サス唯出生児ヲ自由人ト見ルノ意見カ正当ニ承認セラレタルコトヲ記シタルノミナルヲ以テ考フルニ儒帝ノ法典編纂委員カマルチアーヌスノ法学階梯ノ原本ヲ使用シタルハ明白ナリ
今進テ大体ノ状況ヨリ此ノ問題ヲ観察スルニ編纂委員カ必スシモ凡ノ場合トハ云フ能ハスト雖モ多数ノ場合ニ於テハDigestaニ拠ラス直ニ原本ニ拠リテ法学者ノ著書ヲ参考シ必要ト認メタル法文ハ之ヲ法学階梯中ニ採録シタルモノナリシナラン委員等ハ何ヲ苦ミテカ原本タル写本ヲ有スルニモ拘ラス常ニ間接ニDigestaヨリ法文ヲ採録シタルモノナリト推測スヘキカ況ンヤ編纂委員カ法学階梯ノ編纂ニ着手シタル前ニDigestaノ全部既ニ脱稿シタルノ証拠ナキノミナラス寧ロ委員ハ一面Digestaノ編纂ニ従事スルト同時ニ又一面法学階梯ノ編纂ニモ従事シタルノ証拠アルニ於テヲヤ